人間科学科

Department of Human Sciences

【人間科学科】松本伊智朗:教員紹介

2008.04.01

お知らせ

松本伊智朗:教員紹介

松本伊智朗:教員紹介


<研究していること>
社会福祉論を専門としています。主な研究テーマは、1子どもの貧困と社会的排除に関する研究、2児童養護施設の子どもの社会的自立に関する研究、3子ども虐待問題の日英比較研究の3点で、相互に関連しています。まとめていうと、経済的な困窮や様々な社会的不利を負う子ども、家族の支えが充分ではない子ども、身近な大人からの暴力を経験する子どもを念頭において、こうした問題はなぜおこるのか、どうすれば減らすことが出来るのか、こうした子どもをどのように支えればよいのか、そのために社会福祉や教育が出来ることは何か、といったことを考えています。

<始めたきっかけ>
最初のきっかけは、大学の3年生のゼミで読んだ論文です。先進工業国の貧困問題について議論している論文で、日本は貧困に関する公的統計と測定を持たないこと、これは国際的な動向に逆行していること、研究者もそのことにあまり関心を払わないことなどを知りました。こんな大事な基礎資料に関心を持たずに社会福祉や教育の議論をしているなんて何だかおかしいと、素朴に感じたことをよく覚えています。二つ目のきっかけは、友人の卒業論文の手伝いで、児童養護施設という様々な事情で家族を離れて子どもが暮らしている施設に行ったことでした。子どもに勉強を教えに通いながら、様々な境遇の子ども達がいることを実感しました。25年前のことです。偶然が重なって始めた研究ですが、気がついたらどっぷりつかっていました。

<学生に伝えたいこと>
どの人間も尊厳を持って生きること、人間に関する学問の目的はここにあります。貧困や不平等、暴力や虐待は、人間の可能性を奪い尊厳を損ねるがゆえに、問題となります。しかしこの緩和や解決はそう簡単なことではなく、むしろうまくいかないことのほうが多いかも知れません。携わっていて、無力感にとらわれることもあります。
しかし、こうした問題を何とかしたいと考えている人たちと出会うことで、勇気付けられることも多々あります。それは専門家かもしれませんし、学生かもしれませんし、近所のおばちゃんかも知れません。おかしいことをおかしいと感じる人間がいるうちは、悲観することもありません。
学生のうちはあまり細かいことにとらわれずに、人間存在に対する興味関心と、深いところでの信頼感を培って欲しいと思います。自らが考え動くことの価値と、協働することの喜びを、知ってほしいと思います。学問は直接社会を作ることは出来ませんが、芸術や文学と同じように、こうした人間を創ることに少しばかり役に立ちます。人間に対する関心と信頼を欠いた社会福祉など何の意味もないことを、伝えたいと思います。

(松本伊智朗教授は2010年3月に退職しました。)

  • 発行日: 2008.04.01